共創の現場

未来を見据えた指導と伝える覚悟で生徒の可能性を広げる

京都大学大学院で「人がその人らしく生きる」というテーマを研究しながら、学習メンター®として5年間にわたり自習室で教え続ける小澤さん。

本記事では、自らの原体験から辿り着いた「つまずきの細分化」という独自の指導法と、5年間の経験で培った「耳の痛いことも伝える」覚悟を紹介します。

習慣を変えて広げる未来の可能性

――  数あるアルバイトの中で「学習メンター®」を選んだ理由と、教育に対して抱いている熱意やその原点について教えてください。

一番の理由は、自分がこれまで抱えてきた「勉強への悩み」に対する経験や乗り越え方を、最もダイレクトに生徒へ伝えられる環境だったからです。私自身、もともと勉強が好きなわけではなく、高校時代には模試で偏差値40を取ってしまうほど成績が振るいませんでした。しかし、高校1年生の春に出会った大学教授のお話をきっかけに「勉強して大学に行きたい」と強く思うようになり、そこから猛勉強をして今の大学まで進学することができたのです。

塾講師として教えることに特化する道もありましたが、それだとリーチできる生徒数が限られてしまいます。私が関わることで、より多くの人が前向きに勉強に取り組めるようになり、進路について深く考えてくれる人が増えてほしい。そこで自分の経験や思考を最大限に反映できるこの仕事に強く惹かれ、気がつけばここまで続けることができました。

私の教育に対する熱意の原点は、「やり方や習慣が身についていないだけで、本当は頑張ればできる人がたくさんいるはずだ」という確信にあります。学歴や勉強はあくまで一つの手段ですが、その手段を上手く使いこなせないがゆえに、人生の可能性が狭まってしまうのは本当にもったいないと思うのです。

私自身、勉強という手段を使えるようになったことで見える世界が広がり、人生が劇的に豊かになりました。私が現在大学院で研究している「社会の中で人がその人らしく生きる」というテーマにおいても、社会のスタンダードを最低限こなす力、すなわち「勉強」は欠かせない要素です。将来の可能性を広げるために、私たちが関わることで勉強への向き合い方を変えていくことには、非常に大きな価値があると考えています。

つまずきの細分化で育む成功体験

―― 学校にはいろいろな生徒がいると思いますが、接し方や教え方をどう工夫していますか?

最も意識しているのは、自分の価値観や成功体験を押し付けるのではなく、「その子が本当は何に悩み、どうしてそのような状態になっているのか」を深く想像することです。表面的な質問対応で終わらせるのではなく、「そもそもなぜ勉強が好きじゃないのか」といった根本的な部分まで一緒に深掘りし、高校3年生であれば、成績を上げるための具体的な進め方をメモに残して継続的に支援しています。

その上で、二つの工夫を実践しています。一つ目は、「未来を作れるように接する」ことです。目先の点数にとらわれるのではなく、「理系であっても国語力がなぜ重要になってくるのか」「数学の論理的思考が大学に入ってからどう活きるのか」といった社会や未来との繋がりを語り、学習の意義を見出せるように導いています。二つ目は、「つまずきの細分化と成功体験のインストール」です。難しい問題に直面した際、まずはできている部分を認め、どこで立ち止まったのかを一緒に解きほぐします。「筆者の見解を読み取るには、どんな接続詞に注目すればいいか」といった具体的なアプローチを通じて、私が勉強できるようになった感覚を少しずつインストールしてもらうのです。

また、私たちは学校の先生方のように専門的な知識や評価者の立場を持つわけではありません。だからこそ、先生方とは異なる「斜めの関係」を築くことができます。少し年上のお兄さんのような存在として、私の趣味であるドライブやアニメ鑑賞の話などを交えながらフランクに接することで、生徒の心を開く。等身大の受験経験を活かしながら、先生方の素晴らしい指導を心理的な面から補完していくのが、メンターならではの役割だと捉えています。

ビンゴで生み出す自習室の活気


――  現場で感じた課題やニーズを、プログラムディレクター(以下PD)や先生に伝えて、改善や新しい取り組みに反映した、といったようなエピソードがありますか?

以前、ある学校で「もっと多くの生徒に自習室を利用してほしい」というニーズがありました。当時、1日の平均利用者は10人前後だったため、トモノカイのPDや先生方とも連携しながら改善策を模索する中で、私は「『自習室は勉強だけをしなければならない息苦しい場所』というイメージが、生徒の足を遠のかせているのではないか」という仮説を立てました。

そこで、よくあるただのスタンプラリーではなく、ゲーム性を持たせた「ミッションビンゴ」を考案したのです。5×5の25マスの中に、「月曜日にいるメンターと話してみよう」「メンター5人と喋ってみよう」「大学の学びを聞いてみよう」といったコミュニケーションを促すミッションと、「一緒にテスト計画を立てよう」「苦手科目をメンターとやろう」といった学習面のミッションを半分ずつ配置しました。

これなら、毎日来られなくても戦略的にマスを埋める楽しさがあり、景品をもらう達成感も味わえます。結果としてこの企画は大盛況となり、メンターと話すことを楽しみに来てくれる生徒が増えました。「自習室は学習だけでなく、いろいろな人と話せて、学習計画も一緒に立てられる魅力的な場所だ」と実感してもらうことができたのです。後にこの仕組みを別の学校で導入した際も、中学1年生の生徒たちがこぞって利用してくれるようになり、現場の空気が大きく変わったのを感じました。

本気で励まし掴んだ生徒の笑顔

―― 学習メンター®をやっていてよかった、嬉しかったエピソードはありますか?

特に印象に残っているのが、数学は好きだけれど歴史が極端に苦手な生徒のエピソードです。1学期の中間テストで38人中30位くらいを取ってしまい、「どうしよう」と相談を受けました。そこから一緒にテスト対策をして少し点数が上がったのですが、2学期にまた下がってしまい、3学期には「来年からは歴史をやらないからもういい」と諦めかけていました。しかし私は、「でも、ここで最後やりきって、高い点数を取れたら気分が上がらない? 量は多いけれど一緒に頑張ればできそうだよね?」と本気で励ましたのです。すると生徒も「確かに」と奮起してくれ、結果的に学年末考査で今までで一番高い点数と順位を取ることができました。「小澤さん、やった!」と最高の笑顔を見せてくれたあの瞬間は、本当に嬉しかったです。

また、特進コースの生徒に数学を教えていた時のことも忘れられません。「難しすぎて解けない」と持ち込まれた問題を細かく噛み砕き、「この知識は知っている?」と一つずつ積み上げていきました。すると、「あれ、意外と知っている知識とちょっとした考え方だけで解けるんだ」と気づいてくれたのです。後日、久しぶりにその生徒の対応をすると一番難しいと言われる問題集に取り組んでいました。「あれから数学をやろうと思って、難しい問題集を始めました」と言ってくれた時は心底嬉しかったです。分厚い解説書で省略されている部分や、証明問題における逆算の思考法などを丁寧にサポートすることで、「意外と解ける」という確かな自信を深めてもらうことができました。

悔しさから得た本気で伝える覚悟

―― 最初から全てが順調だったわけではないと思います。生徒との関わりにおいて「もっとこうすればよかった」と力不足を感じたエピソードと、そこからどう今の姿勢に繋げているかを教えてください。

ある高校3年生の受験生を担当していた時のことです。普段から適切に接し、休憩時間が長すぎないか声をかけたり、必要な時には発破をかけたりはしていました。ただ、春や夏の時点では「まだ少し先だし、負荷をかけすぎても良くないだろうから見守りながら進めよう」と、あえて注意の強度を抑えていた部分があったのです。

しかし、結果としてその生徒は共通テストの点数が足りず、第一志望の大学に不合格となってしまいました。その事実を知った時、「どうしてもっと早い時期から勉強への向き合い方について厳しく伝えなかったのだろう」「もう少し強く発破をかけるべきだったのではないか」と、強い自責の念に駆られました。結局、その子にとっての1番の幸せは「行きたい大学に行き、やりたいことができるようになること」だったはずなのに、私たちが関わっていたのに叶えてあげられなかったという悔しさが残ったのです。

この痛切な反省から、私は「本当にその子のことを思って向き合うのであれば、時には耳の痛いこともきちんと言葉にして伝えなければならない」と深く学びました。今では、やるべき時には「絶対にちゃんとやろう」と、タイミングを逃さずに伝えることを信条として指導にあたっています。

寄り添う力と高い視座への成長

―― あなたにとって、この活動を通じて得られた「自分自身の成長」や、他の仕事では得られない「学習メンター®ならではのやりがい」とは何でしょうか?

大きく二つの成長があったと感じています。一つ目は、「相手の気持ちに寄り添い、道筋を組み立てる力」です。私自身が努力の末に大学へ進学できた成功体験があるからこそ、無意識のうちに「やればできる」という生存者バイアスにとらわれがちです。しかし、できないことに悩む生徒と深く向き合う中で、自分がかつてつまずいた経験を常に思い出し、相手の目線に立って前向きになれるような声かけを組み立てられるようになりました。

二つ目は、「高い視座で物事を捉える力」です。関西の学習メンター®評価制度チームのリーダーとして学校のチーム運営や制度設計に携わる中で、「学校様が私たちに何を期待しているのか」「数年後も信頼して任せていただくためには、組織としてどう振る舞うべきか」といった本質的な課題を考えるようになりました。

そして、他の仕事では得られない「学習メンター®ならではのやりがい」は、圧倒的な裁量とフラットな文化にあります。学生でありながら、PDや学校の先生方と対等な目線で意見を交わし、現場をより良くするための議論を深めていける。学生を心から信頼し、提案を受け入れてくれる環境があるからこそ、私たちは本気で教育に向き合うことができるのです。この活動を通じて得た視座を胸に、より多くの人の可能性を最大化するという夢に向かって挑戦し続けたいと思っています。

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