共創の現場
2026.06.04
放課後学習
インタビュー
学生メンター
斜めの関係で信頼を築き学校の課題に挑む学習メンター®5年の歩み
京都大学大学院の工学研究科で、研究に没頭する傍ら、5年にわたり「学習メンター®」として学校の自習室で教え続ける岡本さん。
本記事では、5年間の学習メンター®の経験を持つ彼だからこそ辿り着いた、教員でも友人でもない「斜めの関係」による信頼構築の方法と、学校の課題を自分事として捉える熱い想いを紹介します。
勉強の本当の楽しさを伝える原点
―― 数あるアルバイトの中で「学習メンター®」を選んだ理由と、教育に対して抱いている熱意やその原点について教えてください。
自身の高校時代までの経験を活かせる教育系のアルバイトを経験したいと思ったことが、大きな理由です。友人と一緒に勉強したり教えたりする機会が多かった中で、自身の働きかけによって誰かが良い方向へ変化していくプロセスに大きなやりがいを感じ、そのような仕事が自分に合っているのではないかと考えていました。
そして何より、生徒の人生そのものに伴走できるところに強い魅力を感じて学習メンター®を選びました。中高生の時期というのは、勉強だけでなく部活や人間関係など、学校生活のすべてが彼らの人生において非常に大きなウェイトを占めています。そうした多感な時期の生徒に対し、等身大の大学生が勉強以外の部分でも双方向に関わっていくことは、広い意味での「教育」であると私は考えています。
私が学習メンター®の仕事を通じて最も伝えたいのは、勉強の本当の楽しさです。周囲から「勉強しろ」と言われたり、いい大学に行きたいという思いが先行したりすると、どうしても勉強に対して義務感や嫌悪感を抱いてしまう生徒は少なくありません。だからこそ、嫌々取り組むのではなく、私が彼らの目の前で一緒に問題を解きながら、その面白さを実演して体現することで、学ぶことの喜びに気づいてもらいたいと強く願っています。
問いかけから築く深い信頼関係
―― 学校にはいろいろな生徒がいると思いますが、接し方や教え方をどう工夫していますか?
私は現在、週に4日ほど学習メンター®として学校の自習室へ行き、平日のほとんどは生徒たちと一緒に過ごしています。その中でどのような生徒に対しても共通して心がけているのは、何よりもまず「信頼関係を構築すること」です。同じ内容を教えるにしても、事前に心のクッションがあるかどうかで生徒の反応はまったく異なりますから、今日あった出来事や趣味の話など、生徒が自然と話したくなるようなアイスブレイクを徹底しています。
学習指導の場面で特に気をつけているのは、生徒の立場に立ち、彼らの見えない思いを汲み取ろうとする姿勢です。例えば「ここまでは分かる?」と一方的に聞くだけでは、生徒に「ここまで分かっていないといけないのか」という威圧感を与えてしまう可能性があります。そのため、解説を始める前に「最初見た時にどういう解き方を想像した?」「答えを読んで、どこから分からなくなった?」と丁寧に問いかけ、認識をすり合わせるプロセスを大切にしています。そうすることで、生徒自身も分かったつもりになっていた箇所に気づくことができ、芋づる式に復習ができるという効果も生まれます。
さらに、単にその場で理解させるだけでなく、「再現性のある勉強」に導くことも強く意識しています。解説をなぞるだけではなく、「なぜこの解答はこの解き方に至ったのか」「自分ならどうアプローチするか」という視点を持たせ、自力で解けたという実感から生まれる楽しさを味わってもらえるよう工夫しています。
一方で、学習意欲がまだ高くない生徒に対しては、まずは雑談を通じて「この人なら話しやすいかも」と感じてもらうことを優先し、「せっかく自習室に来たのだから、ここまでは解いてみようか」と、短期的なマイルストーンを設けて小さな達成感を積み重ねるアプローチをとっています。
進路の視野を広げる大学紹介作り
―― 現場で感じた課題やニーズを、プログラムディレクター(以下PD)や先生に伝えて、改善や新しい取り組みに反映した、といったようなエピソードがありますか?
学校の先生方が抱えていらっしゃる課題の一つに、「生徒が大学の知名度や自宅からの近さだけで進路を選んでしまい、日本全国にある魅力的な大学の存在を知らない」というものがありました。このお話を伺った時、全国の多様な大学に在籍する私たち学習メンター®の強みを活かさない手はないと考え、メンバーの出身地や在籍大学の情報をまとめた「大学紹介」の作成をPDや先生方に提案し、現在プロジェクトを進めています。
この大学紹介は、単なる偏差値や基本情報の羅列ではありません。「ここにはこんなに美味しいご当地グルメがある」「この大学は意外にも世界最先端のロボット研究をしている」など、生徒の好奇心を刺激するような生きた情報を盛り込み、各都道府県に最低1校以上の大学を掲載することを目指しています。
まだ完成前の段階ではありますが、作業中に自習室へ来た生徒が興味を示してくれることも多々あります。例えば、私の出身地である香川県の大学紹介を見た生徒から「香川ってこんなところなんだ!」と大学紹介をきっかけに勉強以外の幅広いコミュニケーションへと発展し、結果的に進路への視野を広げるきっかけにもなっています。
生徒が学ぶ楽しさに気づく喜び
―― 学習メンター®をやっていてよかった、嬉しかったエピソードはありますか?
一番嬉しく感じるのは、やはり生徒が「勉強って楽しい!」と思ってくれた瞬間に立ち会えた時です。私が教える上で最も意識している部分が伝わり、「こんな解き方があったんだ」「数学と物理って、ここでこんな風に繋がるんだ」と、彼らがパッと目を輝かせて嬉しそうな顔を見せてくれる瞬間は、まさに学習メンター®冥利に尽きると日々感じています。
また、「分かりやすい」と言ってもらえることはもちろんのこと、後日再び私のところへ学習相談や質問に来てくれるなど、自分を頼りにしてくれていると実感できる時間も非常に充実感が得られます。そして最終的に、テストの点数が伸びたり、志望大学への合格といった明確な結果が現れた瞬間は、彼らと共に伴走してきたからこその大きな喜びを感じます。
失敗から学んだ生徒とのコミュニケーション
―― 最初から全てが順調だったわけではないと思います。生徒との関わりにおいて「もっとこうすればよかった」と力不足を感じたエピソードと、そこからどう今の姿勢に繋げているかを教えてください。
自習室という環境は、塾や家庭教師のようにすべての生徒が学習しに来ているわけではありません。時にはただ遊びに来ているだけの生徒や、「勉強したくない」と学習メンター®にすがるような生徒もたくさんいます。学習メンター®を始めた頃は、そうした生徒たちにどう対応すればいいのか分からず、うまく学習へと誘導できなかったという苦い失敗経験がありました。
そのもどかしい経験から学んだのは、やはり一人ひとりとの信頼関係を築くことが何よりも先決だということです。生徒が「この人たちは話しやすい」「もう一度話したい」と思ってくれるだけで、自習室に足を運んでくれる回数が増え、「じゃあ少しだけ勉強してみようか」という声かけへの素直な反応に繋がっていくのだと気づきました。ただ質問に答えるだけのチューターではなく、双方向にコミュニケーションが取れる存在として向き合う今の姿勢は、こうした失敗から形成されています。
一方で、現場では「生徒と仲良くなりすぎてしまう」という別の課題にも直面しました。特定の学習メンター®に生徒がずっと張り付いてしまい、他の生徒の対応ができなくなるという物理的な問題です。この状況を改善するため、現場の学習メンター®たちで話し合い、タイマーを設けて「20分経ったら次の人のところに行く」というルールを作りました。同時に、周囲の状況を俯瞰して声をかけるリーダーメンターの役割がいかに重要であるかも深く学びました。
共に背中を押すリーダーへの成長
―― 最初から全てが順調だったわけではないと思います。生徒との関わりにおいて「もっとこうすればよかった」と力不足を感じたエピソードと、そこからどう今の姿勢に繋げているかを教えてください。
自習室という環境は、塾や家庭教師のようにすべての生徒が学習しに来ているわけではありません。時にはただ遊びに来ているだけの生徒や、「勉強したくない」と学習メンター®にすがるような生徒もたくさんいます。学習メンター®を始めた頃は、そうした生徒たちにどう対応すればいいのか分からず、うまく学習へと誘導できなかったという苦い失敗経験がありました。
そのもどかしい経験から学んだのは、やはり一人ひとりとの信頼関係を築くことが何よりも先決だということです。生徒が「この人たちは話しやすい」「もう一度話したい」と思ってくれるだけで、自習室に足を運んでくれる回数が増え、「じゃあ少しだけ勉強してみようか」という声かけへの素直な反応に繋がっていくのだと気づきました。ただ質問に答えるだけのチューターではなく、双方向にコミュニケーションが取れる存在として向き合う今の姿勢は、こうした失敗から形成されています。
一方で、現場では「生徒と仲良くなりすぎてしまう」という別の課題にも直面しました。特定の学習メンター®に生徒がずっと張り付いてしまい、他の生徒の対応ができなくなるという物理的な問題です。この状況を改善するため、現場の学習メンター®たちで話し合い、タイマーを設けて「20分経ったら次の人のところに行く」というルールを作りました。同時に、周囲の状況を俯瞰して声をかけるリーダーメンターの役割がいかに重要であるかも深く学びました。
―― あなたにとって、この活動を通じて得られた「自分自身の成長」や、他の仕事では得られない「学習メンター®ならではのやりがい」とは何でしょうか?
人と人との信頼関係をどう築き、どう向き合うかという本質的なアプローチを学べたことが一番の成長です。学習メンター®は「人生の先輩」という立ち位置ではありますが、あくまで関係の根底にあるのは人間同士の繋がりです。学校の先生の「縦の関係」や友人同士の「横の関係」とは違う、この「斜めの関係」だからこそ、双方向のコミュニケーションが生み出す価値は計り知れません。
また、リーダーメンターとしての立ち振る舞いにも大きな気づきがありました。初めて現場のリーダーメンターを任された時、私は「リーダーだから自分が全てを頑張らなければ」と抱え込み、シフト管理から先生との打ち合わせまで一人でこなそうとしてパンクしてしまった経験があります。そこから、他のメンバーを信頼して仕事を任せ、チーム全員で前に進む姿勢の重要性を学びました。リーダーシップとは先頭に立って引っ張るだけでなく、みんなのことを考えて一緒に背中を押すタイプのものもあるのだと、周囲のフィードバックから気づくことができたのは大きな財産です。
そして、学習メンター®という活動を通して、私自身も「勉強の大切さ」を再確認することができました。勉強で身につけた解法は、まるでゲームの武器のようなものです。一つの武器で倒せなかった問題も、別の武器を使えば倒せるかもしれない。そしてその武器は、実は別の教科に挑むときや、将来の選択肢を広げるときにも力になってくれるかもしれない。この世界の広がり方と楽しさを、これからも生徒たちに全力で伝えていきたいと思っています。
