導入事例
2026.02.26
放課後学習
中高共通
女子校
生徒の段階に応じた「伴走」と「学びの深化」 ―ICTだけでは届かない初期指導期のアプローチが、自分の軸を育てる―
日々の学習支援を丁寧に行っている私立中高一貫校であっても、中学入学直後の「初期指導期」における学習習慣の定着は、頭を悩ませる共通の課題です。中学受験を乗り越えた反動による中だるみや、受動的な学習姿勢からの脱却をどう図るか。
建学の精神として「捨我精進(しゃがしょうじん)」を掲げ、生徒一人ひとりが「豊かな人生を歩める人になるため」の人格形成を重視する田園調布学園中等部・高等部では、2024年度から新たに中等部の生徒を対象に放課後学習支援プログラムを導入しました。生徒自らが「なでりんRoom」と名付けた自習室を拠点に、自立的な学習習慣の定着を目指しています。
なぜ、ICTツールや自習室の開放だけではなく、「人」による伴走型の支援を選択したのか。
同校の教頭兼子先生と進路支援部長村越先生に、導入の背景にある教育理念と、現場で起きている生徒の変化について、お話を伺いました。
「自分の軸」を見つけるために初期指導期における自立学習の土台づくりと直面した課題
―― まずは、貴校の教育方針についてお伺いします。建学の精神である「捨我精進」に基づき、生徒様にどのような姿に育ってほしいとお考えでしょうか。
<兼子先生>捨我精進における「我」というのは、自分の成長を阻むような我欲や我情、我見(自分勝手なものの見方)を指します。そうしたものを抑えて、なりたい自分に近づくために努力し続けることを大切にしています。
「自分の軸を見つける」という言い方がありますが、自分とは何者なのかを問い続け、学校での様々な経験を経て自分の大切に思うものを見つけ、まずはその軸を作ってほしいと考えています。芯のある女性になるために、自分の目標に向かって努力できる生徒であってほしいですね。
<村越先生>豊かな人生を歩むために「学び続ける」という観点でも、自分の目標を自分で見つけ、そのために日々取り組むことができる姿勢を大切にしています。
―― 中学生の早い段階から、そうした自らを高め続ける姿勢や自律性を身につけることを理想とされているかと思います。一方で、実際の現場ではどのような課題感をお持ちだったのでしょうか。
<兼子先生>おっしゃる通り、理想はあるものの、やはり中学1年生が自分で計画を立てて自走することは、なかなか難しいのが現実です。実はコロナ禍の前から、「個別最適化」という言葉を念頭に、こうしたシステムの導入を検討していました。40人一斉の授業では、生徒それぞれの学習の進度や必要としていることへの対応に限界があります。低学年の間に、自分のペースで課題に取り組むという体感をさせないと、自立した学習は難しいと感じていました。様々なICT教材やシステムも検討しましたが、やはり中学の初期段階ではシステムだけでは不十分だと感じました。まだ学習習慣が定着していない段階だからこそ、「人が伴走する」という要素が不可欠だと思ったのです。
<村越先生>本校は伝統的にとても丁寧な指導を行っていますが、一人の教員が40人、あるいはそれ以上の生徒全員について個々に対応し続けることには、限界があります。 また、中学受験の塾で詰め込み型の学習をしてきた生徒たちが、入学後に勉強しなくなる現象も見られます。そうしたなかで、教員だけで全てを抱え込むのではなく、外部の力も借りながら、生徒が自ら学習を進めていける仕組みが必要だと感じていました。
―― 既存の指導の手厚さは維持しつつも、生徒の自立を促すためには「人」による伴走が必要だという結論に至ったのですね。
<兼子先生>そうです。当初、働き方改革の観点もありました。教員は教材研究はもとより生徒支援や行事などエネルギーを注ぐべき場面がたくさんあります。学習指導をおろそかにすることはできませんが、そこにサポート的に人が入ってくれることは、学校全体の教育力を高める上でも非常に有効だと考えました。

学習習慣を「生活の一部」へ質問しやすい環境が育む達成感
―― 具体的にどのような狙いで、放課後学習支援プログラムを導入されたのでしょうか。
<兼子先生>生徒にとって「質問しやすい環境」を作りたかったという点が大きいですね。本校の教員も質問にはよく応じていますが、試験前などは特に質問対応で職員室前のスペースが混み合います。やはり、わからないことを直接聞きたいというのは「人」に対するニーズです。教員とは異なる、年齢の近い学習メンターという存在がいることで、生徒が気軽に質問できる環境が整うと考えました。また、学校の状況や我々のアイデアに対して、一緒に試行錯誤しながらカスタマイズして作り上げられそうという期待感も感じられました。
―― 実際に導入して2年目となりますが、運用面での変化や手応えはいかがでしょうか。当初は先生方の間で、大学生に任せることへの不安もあったかと存じます。
<村越先生>昨年度は、初年度だったこともあって、大学生にどこまで任せていいのかという戸惑いや、自習室に行かない生徒に対してどこまで促すのか、といった試行錯誤がありました。 しかし今年度は、学校生活の一部という形で「まずは行ってみよう」という雰囲気作りができています。
学年担任や教科担当者の理解と協力もあって、特に学習習慣があまり定着していない生徒に活用を促す工夫がよりできるようになってきました。また、今年度から進路支援部の会議で自習室の件を話題にあげて、取り組みの様子や所感を聞いたりするようになりました。
<兼子先生>2年目に入って、各教科担当と学習メンターやプログラムディレクターとのやり取りや連携が増えていると思います。初年度は長期休業時や土曜日の来室者が少ないという課題がありましたが、今年度は増えてきたので、自習室へ行くことが定着したと実感しています。学習メンターに質問することが教員とはまた違ったモチベーションに繋がっており、生徒と学習メンターが顔馴染みになって質問しつつ学習に取り組む姿が見られます。
<村越先生>どうしても生徒は日々の課題に追われてしまいますが、学校で課題を終わらせて、家では自分の好きなことに取り組む、というようにメリハリをつけて学習することも大事にしたいと思っています。自習室があることで、そうした環境が整ったこともいい点だと思います。
―― 我々も、日々の利活用促進のため、生徒さんに寄り添いながら「わからない」を「できる」に変えていくという経験を放課後の学習環境でいかに実現していくか、というところを意識して取り組んでいます。
<村越先生>先ほど話した課題にもつながると思いますが、学習が苦手だと感じている生徒や自分ひとりで勉強しづらいと感じている生徒にとって、「ここまで自分でやれた」という達成感を持って学習に取り組めていると思います。
学力層に応じたアプローチで、個別最適化した学習を
―― プログラム内での取り組みで、特に効果を感じていらっしゃるものはありますか。
<兼子先生>模試の「振り返り会」は非常に効果的でした。 模試の結果が返ってきた際、ただ結果を見て終わってしまうことが多いのですが、そうではなく、「どうすれば一つ上のランクに行けるか」という視点を身につけてほしいと考えています。模試の「振り返り会」を通じて、「どうやって成績を上げるか」を具体的に考えることが学習のモチベーションになり、学ぶことにも積極的になると考えます。
<村越先生>これまでもホームルーム等で振り返りは行っていましたが、より精度が高い振り返りができていると思います。「あと何問正解すればよかったのか」「どのレベルの問題を取りこぼしてはいけないのか」といったところを自分で丁寧に見る、その見方を学習メンターの方が入って、客観的な視点から分析するサポートをしてくれることで、自分自身で課題を発見する力が育っていると感じます。
―― 上位層の生徒に向けた「メンターからの挑戦状」という施策も行っています。自力で学習できる上位層の生徒が来室するきっかけ作りとして、大学入試問題や学習メンターの専攻分野に関する問題を出題し、知的好奇心を引き出すことを狙っています。生徒の様子や反応はいかがでしょうか。
<兼子先生>「メンターからの挑戦状」や模試の振り返り会後の個別面談をきっかけに、上位層の生徒が、大学での学びの話を聞いて刺激を受けたり、「東大に行きたい」といった相談をしたりする場面も出てきていると聞いています。
<村越先生>学力が高い生徒は、確かに自習室へ行かなくても自力で勉強できていますが、「メンターからの挑戦状」で出題されるような新しい学習や今よりレベルの高い学習に対して積極的に挑戦しようという姿勢をもった生徒がより増えるといいと考えています。今後は、授業の延長線上に、発展的なものを上位層向けの施策として実施し、高みを目指して挑戦し続けるような雰囲気を醸成したいです。
<兼子先生>例えば、レベルの高い全国模試を受験する生徒を対象に、解説講座やプラスアルファの問題を課すといったような施策は需要があるかもしれません。それらを経て、「メンターからの挑戦状」にも飛びつくような生徒がどんどん増えるといいと思います。

今後の展望―「体験」と「学習」の好循環を目指して
―― 最後に、今後の展望についてお聞かせください。
<兼子先生>客観的に苦手な教科・分野などを分析し、計画を立てて、自律的に学習できる生徒を育てたいと考えています。そのためにも、学習メンターからのサポートも受けつつ、自分一人でも学習できるように引き上げていくことが理想です。 本校はもともと「体験」を非常に重視している学校です。学習はどうしても机に向かうものですが、放課後の学習支援プログラムを活用して基礎学力を固めることによって、その他の体験活動がより充実し、その体験がまた学習への意欲としてフィードバックされる、そういった好循環を作りたいと考えています。 学習の土台をしっかりと作ることで、机の上だけではない学びの時間も確保できるようになることが理想です。
<村越先生>私も同感です。中学時代に身に付けた基礎学力を土台にして、自由な発想や探究活動ができるようになります。放課後の時間が、そうした土台作りの場として機能し、生徒の可能性を広げる場として定着していくことを期待しています。
田園調布学園の事例からは、ICT教材などの「システム」だけでは解決しきれない、初期指導期の生徒特有の課題が浮き彫りになりました。 まだ自走できない生徒には「人」による温かい伴走を、自走できる生徒にはより高い知的好奇心を引き出すことを。教員と学習メンターがそれぞれの強みを活かして連携することで、「自分の軸」を持った学習者を育てる環境が、着実に醸成されています。
放課後の時間を単なる「自習」の場から、自立への「滑走路」へと変える同校の取り組みは、多くの学校にとって示唆に富むモデルケースと言えるでしょう。
(取材日:2025年12月25日)
