導入事例
2026.09.17
放課後学習
中高共通
女子校
生徒が“自ら選ぶ”選択肢として 設計された新たな学びの場の創り方 ー データと対話で紡ぐ湘南白百合の教育改革 ー
湘南白百合学園中学・高等学校は、「愛ある人として」を教育の指針とし、他者や社会に貢献する生徒を育む教育と、協働を促す先進的な環境づくりを実践してきました。しかしその裏では、教員の感覚に依存した指導からの脱却や、客観的なデータに基づく指導体制の構築、生徒が主体的に学ぶ場の創出といった課題を抱えていました。
入試改革を皮切りに進められた教員間の「データに基づいた対話の文化」の醸成から、外部パートナーとの連携を通じた多様な学びの場の提供まで、改革の軌跡と今後の展望について岩瀬校長先生にお話を伺いました。
改革の原点「愛ある人として」の理念と先進的な環境づくり
―― まず、貴校の教育理念と特徴について教えてください。
本校はカトリックの修道会を設立母体とする伝統ある学校で、教育の根底には「愛ある人として」という確固たる指針が存在しています。
これは単に何かを成し遂げるという行動(doing)にとどまらず、世の中にいかに存在すべきかという在り方(being)を問うものです。社会に愛ある人として存在し、他者のため、そして社会貢献のために生きていくことに深い喜びを見出す。 そのような人材を育むことが、本校の変わらぬ使命となっています。
伝統を重んじる一方、本校では先進的な取り組みも積極的に行っています。施設面では、ICT機器と書籍を集約した知の拠点「メディアネットラボ(図書室)」を構築したほか、生徒自身が設計デザインに関わったカフェテリア「リリースペース」を設置しました。さらに、最新の施設では「クリエイティブスペース」を作りました。従来のコンピューター室に可動式の机や椅子を取り入れ、ガラス張りのスライド扉を開放できるようにした、広く自由な空間です。その前には、生徒たちが輪になってプレゼンテーションができるエリアも設けました。
築45年以上の校舎ですが、こうした施設のリニューアルを通じて、生徒たちの想像力をかき立て、協働を促す「学校らしさ」を打ち出しています。
入試改革を契機とした本物の学びへの挑戦
―― 学校改革に踏み出し、学習メンター®プログラムを導入するに至るまでの経緯を教えてください。
学校改革への一歩を踏み出したのは、私が数学科の主任だった時代まで遡ります。
当時は数学を暗記科目として扱い、知識を詰め込む授業が散見され、生徒が本来感じるべき「分かった」という喜びや、学ぶ楽しさを大切にできていない状態に課題意識を感じていました。また、指導方法が私たち教員の長年の経験や個人の感覚に依存する部分が大きく、個人の経験値や学びを教科全体へ波及・共有し、学校として蓄積できるような仕組みが足りないと感じていました。進路指導の面においても同様でした。そのため、後進の育成が進まないという構造的な課題を抱えていました。生徒の努力に対しても「頑張っている」という曖昧な評価にとどまり、客観的な指標で生徒の現在地を正確に把握する仕組みが不足していました。
そうした中、中学受験の状況が下降傾向にあったこともあり、大きな入試改革を断行することになりました。それが、2019年度からの「算数1教科入試」の導入です。単に導入するだけでなく、「数学的センスがあったり、考えることを楽しめる生徒に入学してほしい。そのためには、本物の数学教育、つまり魅力的な授業を提供しなければならない」というストーリーを描き、授業改革に焦点を当てました。
そこで私は、東京学芸大学の教授にご指導を仰ぎ、教員自身が学ぶ場として年5〜6回の頻度で「研究授業」と徹底的な振り返りを行う「協議会」をスタートさせました。
当初、この取り組みに協力してくれた先生は1〜2名ほどでしたが、若手教員を中心に徐々に賛同者が増え、教科全体に浸透するまでに約3年かかりました。「授業が変われば生徒も変わる。教員同士の対話が変われば教科自体が変わる」という実感は、私の大きな成功体験となりました。この経験を活かし、校長に就任してからは、数学科だけでなく全教科を巻き込んだ授業研究へと発展させました。

感覚から指標への意識変革から放課後学習という新たな価値の提供
数学科の主任を経て、その後学習支援部長に就任してからは、「データに基づいた対話の文化醸成」を進めていきました。
まずは年度の初めに「教科のプロとしての自覚を持つ」ことを教員たちに掲げました。教員が「教科のプロとしての自覚」を持つこと、そしてその自覚を持って日々の授業や自分自身を磨くという姿勢です。
それから、3つの柱を軸に改革を進めました。まずは、客観的な指標である「データ(GTZ)」を共通言語に、教員同士が語り合い、議論する文化を醸成しようと考えました。模試を実施した後は、必ず教員による「分析会」と生徒への「振り返り」をセットで行い、次の授業改善に繋げる仕組みを作りました。
次に、形骸化していた「成績会議」のあり方も大きく変えました。単に定期テストの結果を振り返るのではなく、事前に教科会や学年会でGTZの層に応じた学習支援や課題設定の内容を決定し、それを会議で発表してもらう形式にしたのです。これにより、会議後の担任による生徒への個人面談も非常に充実したものとなり、教員自身の指導力向上にも繋がりました。
さらに、それまで無償で行っていた夏期講習を希望者制にし、有償化しました。生徒から費用をいただくことで、教員側にも「責任を持って指導する」という自覚とモチベーションが生まれ、より質の高い夏期講習などを実施できるようになりました。
こうした「感覚から指標による対話へのシフト」を進める中で、2020年から放課後学習サポートとして自習室を開設し、トモノカイの学習メンター®プログラムを導入しました。単なる居残り補習室ではなく、生徒が主体的に選ぶ学びの場へなることを目指し、再設計することにしました。
―― 前回のインタビューではプログラムを導入するにあたっての目的や設計思想についてお聞きしました。自習室の導入から6年、運営が順調になった要因はどこにあるのでしょうか?
自習室の運営にあたっては、教員と外部サポーターであるトモノカイとの連携が鍵となります。
はじめは、生徒の学習指導を外部に委託することに対し、教員の間には非常に強い抵抗感と戸惑いがありました。自分たちで補習を毎日行うことは物理的に不可能だと理解しつつも、外部に任せることへの心理的なハードルは高いままだったのです。しかし、教員側の負担を減らす働き方改革の視点も含め、「どこを学校がサポートして、どこを外部に預けるか」を議論しながら再設計していきました。
さらに、教員とトモノカイの間でグループチャットを作成する等、密に情報共有し連携しやすい仕組みを作りました。
自習室はいろいろな生徒が通える場所になるよう、定期試験対策から志望理由書のサポート、小論文対策まで、連携しながらいろいろな施策を実施しています。また、授業で扱った単元を放課後にもう一度フォローしてもらう「授業連携」なども一緒に作り上げてきました。さらには、トモノカイや他の外部サポーターに、合格実績の分析や模試の振り返りを行ってもらい、トモノカイにも一部の分析会に参加し関わってもらうようにしています。
教員と外部パートナーとの連携を意識的に作っていくことで、「自習室は外部のものではなく、自分たちもかかわっていくものなのだ」という意識が、教員の間に徐々に定着していきました。

学びのモチベーションは「学校の外」にある ー未来の視野を広げる高大連携と探究活動
―― 放課後の学習環境以外では、生徒にどのような学びの場を提供されていますか?
確かな基礎学力を構築する一方で、生徒たちの知的好奇心を刺激し、将来の視野を広げるための「探究活動」や「高大連携」などを進めています。
「高大連携」においては、2021年の東京学芸大学を皮切りに、これまでに11の大学と高大連携協定を締結しました。これは単に指定校推薦のためではなく、大学の施設を使って本物の学びに触れたり、大学教授による先端研究の講義を受けたりするためです。本物の学びに触れることは、本校が推進するSTEAM教育を強力に後押しする機会となっています。また、高大連携だけでなく他校との共同企画も活発に行っています。
長期休暇中には「探究講座」を実施しており、「ドローンの映像編集講座」や「生成AI実践講座」、獣医学部の学習メンター®と学ぶ「獣医師と再生医療講座」など、トモノカイと連携しながら企画しています。2026年度も約30の多様な講座を開講し、のべ600人近くの生徒が意欲的に参加しました。
生徒の学びのモチベーションは外にあると考えています。今後も学校以外でも生徒が主体的に学べる場を創っていきたいと考えています。

「愛を知性に変えて生きる」次世代リーダーの育成に向けて
―― 最後に、今後の展望についてお聞かせください。
本校の建学の精神「愛ある人として」を基盤として、大学に合格したその先に社会でその生き方を実践できるリーダーを輩出することを目指しています。
これからのAIや先端技術が普及する時代において、私たちは生徒たちに「この技術は本当に人のためになるものなのか」「自分が得た知識や力は、弱い立場にある人々や社会の平和のために役立っているだろうか」と、自ら問い続けられる存在であってほしいと願っています。つまり、「愛を知性に変えて生きる」ということを大切にしてほしいです。
多様な進路に挑戦できる確かな学力とともに、どのような環境下でも生き抜くための非認知能力を育むキャリア教育が、ますます重要になります。そのためには、教員同士で分掌を越えて支え合う、学校全体で生徒を育てるような組織体制をつくるだけでなく、外部の企業や外部の人材との「掛け算」のような協働が不可欠です。
AIが学習分析を担うようになる時代において、これからは個々の多様な学びに伴走し、サポートする仕組みや、外部と連携できる組織の力を高めていくことを大切にしていきたいです。
学校と外部パートナーが「掛け算」のように協働することは、教員の意識改革を促すだけでなく、生徒が自ら問い「愛を知性に変えて生きる」ための豊かな学びを創出する力となります。同校の建学の精神に根ざした主体的な挑戦は、学習メンター®プログラムや探究講座での連携を通じて、より大きな実りへと広がっています。
トモノカイは今後も学校様のパートナーとして、『学校課題の解決』と『生徒様の学びの主体性向上』を目指してまいります。
(取材日:2026年7月24日)
